<2学年の教材 「紙芝居:くしぶちのおまつり」>

「おじいちゃん,おじいちゃん。」
 学校から帰ると,すみ子はいそいでカバンを置いて,庭先にこしかけているおじいちゃんに言いました。
「もうじきおまつりはじまるよ。」
 おじいちゃんはにっこりわらって言いました。
「すみ子はおまつりがすきなんじゃな。」
「うん,お店も出るし,うらやすのまいや,やぶさめもあるし。今年は金魚すくいで,いっぱい金魚をすくうけんな。」
「おみやげにたこやきを買うてくるで。」
「わたがしもほしいな。」
「ああええよ。年に一回のおまつりじゃけんな。」





 遠くの方からまつりばやしが聞こえてきました。すると,今までにこにこわらっていたおじいちゃんは,何かを思いかえすように,じっとおはやしに耳をかたむけていました。その顔を見ているうち,すみ子はふと聞いてみたくなりました。
「おじいちゃんの子どものころのおまつりはどんなだったの。」
「ああ,おじいちゃんが子どものころなあ…。どれ,ちょっと聞かせてあげようかの。」
「うん。」




「あのな,おじいちゃんが子どものころはな,おじいちゃんはおまつりに行けんかったんよ。」
「えー,なんで,なんで。おまつり行きとうなかったん。」
「そりゃ行きたかったよ。ほなけんど行けんかったんじゃ。おじいちゃんらはな,むかしからおまつりにいれてくれんかったんじゃ。」
「ほな,うらやすのまいもやぶさめもできんかったん。」
「そうじゃ,おはやしもうたせてくれんかったし,みこしにもさわらせてもらえんかったんじゃ。」
「ほかのみんながおまつりに行っているのに,わたしだったらいやだな。」
「おじいちゃんもいやだったよ。おまつりなんかなかったらええんじゃって思ったよ。」







 おじいちゃんの話をききながらすみ子は,今はこんなに楽しいおまつりなのに,むかしはそんなことがあったんだと思うと,なんだかとてもかなしい気もちになってきました。









「でも,どうしておまつりに行けなかったの。」
「いっしょにおまつりをさせてほしいと何回もたのんだんじゃが,『むかしからきまっていることはかえられん。』って言われてな。」
「そんなの,おかしいよ。」
「あかんって言われて,ほんまにくやしいやらつらいやら。けどな,わしらだけではそれをどうすることもできんかった。」
 そのときすみ子には,いつもはやさしく元気なおじいちゃんの顔が,とてもかなしそうな顔に見えました。






「すみ子は,喜田博士を知っているかな。」
「うん,学校にもしゃしんがあるよ。」
「その喜田博士がな,『おまつりはみんなのおまつりじゃ。もう一どみんなでように考えてみなあかん。』と言うてくれたんじゃ。」
「ふうん,そうだったの。」
「そうじゃ,あのときはほんまにうれしかった。なかには,『やっぱりきまりはきまりじゃ,いっしょにはできん。』と言う人もあったが,みんなで何ども何ども話し合って,わしらもいれてもらえるようになったんじゃ。今聞こえとるおはやしもな,立江の人らが教えに来てくたんじゃ。」





「そうか,それじゃあ櫛渕のおまつりは,みんなのたからものだね。」
 おじいちゃんの話を聞いて,すみ子は言いました。
「そうじゃ,そうじゃ。」
 おじいちゃんは,とてもうれしそうな顔をして答えました。まつりばやしが,いちだんと大きくひびいてきました。
「おじいちゃん,はようおまつりに行こう。」
すみ子はすっと立ち上がり,おじいちゃんの手をとりました。