<3学年の教材 「喜田貞吉博士」>

「どうでしょうか。むすめさんをぜひ学校に。」
 貞吉の家をたずねてきたのは,樋口校長先生でした。櫛渕小学校ができたころは,学校へ来ることのできない子どもが多かったため,樋口先生は一軒一軒,子どもたちの家をたずねて歩いていたのでした。
「でもねえ,むすめが学校に行ってしまうと,貞吉の子もりをするもんがおらんようになるけんなあ。」
「よし,それならどうだ,貞吉もいっしょに入学させよう。」
「えっ,ぼくも学校に行けるの,うれしいな。」
 貞吉は,まだ6才でしたが,あねにつれられて学校に行くことになりました。
 はじめて行く学校は,楽しいことがいっぱいでした。貞吉は勉強も大好きで,樋口先生から国語や算数や,いろいろなことを教えてもらいました。
 けれども,学校では楽しいことばかりでなく,とてもいやなこともありました。いったい何だったのでしょう。

 貞吉は生まれつき鼻が低く体も小さかったので,
「やーい,ちび,鼻べちゃ。」
と言っていつもからかわれていたのです。
「小さいのがなんでいかんのや。鼻が低いんは生まれつきじゃ。」
 貞吉は何度もそう言いましたが,けんかをしても体の大きな子にはかないません。くやしい思いをいつもがまんするだけでした。もう学校なんか行きたくない,そう思うこともありました。
 そんなとき,いつも貞吉をはげまし,力づけてくれたのが樋口先生でした。
「世の中には,貞吉と同じようにつらい思いをしている人がまだまだいる。でも,それに負けてはいけないよ。まちがったことを正していける強い人間になるんだ。」

 やがて貞吉は,もっと勉強をするために大学に進み,日本を代表する歴史学者になりました。そして,世の中には,自分が子どものころに感じたのと同じようなつらさや悲しさを背負って生きている人がたくさんいることを知り,みんながなかよくくらせる世の中にしたい,自分の生まれ育った櫛渕に,もしつらい思いや悲しい思いをしている人がいたら,その人の力になりたいと考えました。櫛渕の人々からは,
「博士はん,博士はん。」
としたわれ,人々のくらしをよくするために一生をささげたのでした。